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日独ハーフの視点

ドイツでも通じる冗談、日本でも通じる冗談

日本語とドイツ語の両方ができることの醍醐味はやっぱり、両方の国の冗談がわかること!笑えること。

日本語が母語でないと分からないような冗談、ドイツ語が母語でないと分からないような冗談にクスッと笑える時、あ、自分は二ヶ国語ができてラッキーだな、と思います。どちらの国の冗談にも笑えるということは、二倍の楽しみがあるということですからね。

大勢の人と一緒にいる時、例えばドイツ人同士がドイツ語の冗談を言って笑っている時、同席している日本人に「あのドイツ人達はなんで笑ってるの?どういう冗談?」と聞かれることがあります。一緒に笑ってもらいたいので、私も冗談をドイツ語から日本語に訳していましたが・・・あることに気付いてしまったのでした。それは・・・「冗談って訳すと面白くない!」ということ。ドイツ風に言うと“Die übersetzten Witze sind die schlechtesten Witze.“(「翻訳されたジョークとはこの世で一番面白くないジョークである。」)といったところでしょうか。

たとえば「布団(ふとん)がふっとんだ!」のような言葉遊び(ダジャレともいいますね)。これをドイツ語に訳したところで、何が面白いのかがサッパリわからないわけです。もっとも「布団がふっとんだ!」に関しては、日本語でも面白いのか微妙なところですけど。

それでも、「日本語の冗談をドイツ人にわかってもらいたい!」「ドイツ語の冗談を日本人に分かってもらいたい!一緒に笑ってもらいたい!」という強い思いから、日常生活の中で冗談の通訳を試みるも、やっぱりリアクションは毎回ビミョーというか「しらける」ことが非常に多いのでした。つまり笑えないし面白くないしで散々なわけですが、私なりに色々調査と観察(?)を重ねた結果、そんな中でも「訳しても面白い冗談」があることをついに発見しました。

はい、「日本語で言っても日本語で言っても面白い冗談」って確かにあるんです。

といっても、とくべつ知的な冗談でも何でもないので、「レベル」については期待しないでください(笑)

さて、私がかつて、日本語からドイツ語に訳して笑ってもらえた冗談は以下の通り。

会議をしていた時のこと。会議の休憩中の雑談で、ある日本人男性が「いやいやいやいや~、僕の(ハゲの)頭も自然災害のようなものですよ~」と言いました。その自虐的発言に、その場にいた日本人(←私も含む)は全員爆笑したのですが、同じくその場にいたドイツ人は当然「何なに?何笑ってるの?」と興味シンシンなわけです。そこで私が「ボクの頭も自然災害のようなもの」をドイツ語に訳したら、意外にもその場にいたドイツ人に大ウケしたのでした。ちなみに「僕の(ハゲの)頭も自然災害のようなものですよ」のドイツ語訳は“Er sagt…Seine Glatze ist auch so etwas wie eine Naturkatastrophe.“であります。品の良い冗談かと聞かれれば違うかもしれません。でも、本人の自虐であるということ、そして会場が笑いに包まれた、ということで、国際交流(ドイツ人と日本人の相互理解?)にも貢献したような気がしますし、これは良しとしたいです。

もう一つ、これはドイツ語に訳してもウケるだろうな、と思ったのは・・・先日、知人の日本人男性がFacebookにアップしていた「昨日の夜、寝違えてしまい、朝から首が痛いです。首を左に向けると痛いので、ずっと右を向いたまんまです。こんなところにも右翼化の影響が・・・」という投稿。これを読んで、「あ!これは、ドイツ語に訳してもウケる冗談だ!」と直感で確信しました。今度ドイツ人に話してみようかしら。

基本的にドイツ人は「時事ネタに引っ掛けた冗談を言うのが好き」なので、「自然災害」だとか「右翼化」だとか、日本人が聞いたらドキッとしそうなネタを冗談にするのが大好きなのです。ですので、こういった時事的なキーワードを含む日本語の冗談をドイツ語に訳すと笑ってもらえる確立がグンと高くなるわけなのですね。

ドイツには、新聞に風刺画も頻繁に載っていますし、時事的なことをテーマにしたブラックな冗談が好まれる傾向があります。(とくにアカデミックで知的レベルが高いドイツ人ほど時事ネタジョークを好む傾向にあります。逆に言うと、時事ネタにひっかけたジョークの一つも言えない、というのは、場合によっては「新聞も読んでいないあまり頭のよろしくないヒト」または「あまり教養のない人」だと思われる可能性があります。)新聞などに風刺画が多いこと、そして時事的な事をジョークにすることはヨーロッパでは、そしてもちろんドイツでもある意味「文化」なのですね。ただ風刺画は人をからかったスタイルの描き方ですし、時事ネタを扱う冗談というのは、シビアな内容(いま話題になっている事件、自然災害や事故)も含みますので、日本人からしてみると、その手の冗談に幻滅してしまうことも少なくないようです。

笑いというものも、「昔から、どういった冗談が、その社会では受け入れられてきたか」そして「その国の昔からの文化」が非常に大きく関係しているのですね。

 

©Colourbox.com

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では、ドイツ的なセンスだと笑えるけれど、日本的なセンスだと幻滅してしまう可能性の高い冗談には具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。

さっそくこの場で、ドイツ人が発した「ドイツ的な感覚だと笑えるけれど、日本的な感覚だとビミョーな冗談」をご紹介したいと思います。

2012年のたしか元旦に、関東エリアで軽い地震がありました。前年の2011年にはご存知の通り東日本大震災がありました。これにかこつけて、2012年の元旦に地震があった時、あるドイツ人が「おおお!さっそく、新年の地震だあ。これは地震がね、挨拶しに来たんだよ。『今年も(いっぱい揺らすから)よろしくね』という挨拶だよ。わっはっはっはっは!!!」と言ったのでした。その場に居合わせたヨーロッパ出身の人々は笑ってましたが、その場に居合わせた日本人には「…」と無言になる人、または苦笑いしている人もいました。まだ震災から9ヶ月しか経っていませんでしたし、こういうことについて冗談を言うのは「何か違う」と違和感をおぼえたようです。この例をとっても分かるように色んな国の人が集まると、「ある国の人達にとっては笑える冗談」だけれど、「違う国の人には笑えない」冗談は確実に「ある」のですね。

上記に「ドイツ人は時事ネタにつなげたジョークが好き」と書きましたが、私が来日して間もない1998年にあの有名な「和歌山カレーライス事件」がありました。夏祭りに出たカレーと食べたら、そこに砒素が入っていて、多くの人が亡くなった事件です。こともあろうに、私が当時働いていた語学学校のドイツ人の先生は、授業の最初に“Na? Haben Sie heute Mittag auch Curry gegessen?“(「あなたも今日のお昼ご飯はカレーだった?」)と生徒に聞くのが慣例になっていました。これなど典型的な時事ネタにつなげたドイツの挨拶というか会話スタイルなわけですね。聞かれた生徒は、なぜ毎回カレーライスについて聞かれるのか困惑気味でしたが…。

もっと最新の例として、今年3月に、大阪で女性(岡田里香さん)が「今日、10年ぶりに小学校の同級生と会うよー わくわく」とFacebookに書き込んだ後、その晩に再会した元同級生の女性(大石ゆり)に戸籍をのっとられ偽造パスポートを作られてしまった上に殺害されてしまうという事件がありました。この事件が報道された数日後に、私の友達がFacebookに「今日は10年ぶりに昔の同級生に会います!楽しみです!」と書き込んだところ、案の定、ドイツ人からの「殺されないように気をつけてね~」のコメントがありました・・・。「今日は10年ぶりに昔の同級生に会います!」と書き込んだ女性自身、ドイツに長年住んだ経験があり、この手の冗談には慣れていたので、「そういえば、そういう事件最近あったよね!怖いよね。気をつけるね」と上手に返していましたが、人によっては「(元同級生に)殺されないようにね?」とツッコまれたら、「何も楽しい気持ちのところを、水をささなくてもいいのに・・・」と嫌な気持ちになる人も多いのではないかと思います。

まあ全体的に言うと、日本の冗談と比べてドイツの冗談は非常にブラックというか皮肉っぽいというかイジワルな発想のものが多いことは否めません。

ドイツ語にはsarkastisch(和訳:皮肉な、風刺的な、冷笑的、嫌味たっぷりの)という言葉がありますが(英語のsarcastic)、こういったsarkastischな感覚も含んだ冗談を言うことは欧州社会では市民権を得ているのですね。同時に日本人、または日本的な感覚の人からしたら、非常に趣味の悪い冗談であることもまた事実です。

こういった日本とドイツの「感覚」の違いについて自覚しておくのは大事な事かと思います。日本ではあまりないけれど、他国(例えばドイツ)ではsarkastischな冗談が昔から「ある」という予備知識があれば、驚いたり不必要に傷ついたりせずに済みます。逆に、日本に長いドイツ人は「日本ではsarkastischな冗談はあまり受け入れられない」ということも頭に入れておいても損はないと思います。ヨーロッパの言語では成り立っても、日本語に訳すとかなり意地悪く聞こえてしまう(欧州の)冗談というのは確実に「ある」からです。

日本人とドイツ人の「間」に立たされている『ハーフ』の私は、日本人に「ドイツ人って、なんであんなに意地悪な事を言うの?」と聞かれることがよくあります。それと同時にドイツ人から「日本人ってユーモアないよね。(←自分の言った冗談に笑ってくれないから)」とグチを言われたことも多々あります。そのたびに、私としては、「ああ、お互いの背景が分かり合えてないのだな」と、もどかしい気持ちになったものです。

・・・と、このコラム、本当は言葉ができると、両方の国の冗談を笑えるから楽しい!というコラムになるはずでしたが、またむずかしい話になってしまいましたね(笑)

・・・これからもよろしくお願いします。

P.S.NHKラジオ第二放送で「まいにちドイツ語きっと新しい私に出会える“大人な女“のひとり旅」~Mihos Traumreise~」を再放送しています。月~水の朝7時からです(同日3時15分にも再放送)。白井宏美先生と一緒に出演しております。ドイツ語を勉強したい方、ぜひ聴いてくださいね(^_-)-☆

著者紹介

サンドラ・ヘフェリン

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴19年、著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ) 、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: ヒラマツオ/KADOKAWA)、「『小顔』ってニホンではホメ言葉なんだ!?~ドイツ人が驚く日本の「日常」~」(原作: サンドラ・ヘフェリン、漫画: 流水りんこ/KKベストセラーズ)」など計11冊。自身が日独ハーフであることから、≪ハーフはナニジン?≫、≪ハーフとバイリンガル教育≫、≪ハーフと日本のいじめ問題≫など「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ 「ハーフを考えよう!」 を運営。趣味は時事トピックについてディベートすること、カラオケ、散歩。

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