ハーフ? それともダブル?
私は今日本に住んでいるが、初対面の人からよく「どこの国の方ですか?」と聞かれる。そこで「日本とドイツです」と答えると「あ、ハーフなんですね。」と返ってくる。最近は、その後に「あ、ハーフって失礼でしたか?ダブルって言わなきゃいけないんですよね?」って言われることが多くなった。なので最近、同じ混血仲間(あえてこう言わせてください)で集まると「『ハーフ』っていう言い方と『ダブル』っていう言い方のどっちがしっくり来る?」なんて話している。
ちなみにインターネットの英和辞書アルク (alc) に「double」と入れてみたら、「ダブルは国際結婚で生まれる子供のこと。『ハーフ』という表現に代わって使われるようになっている」とちゃーんと出てきたよ。
同じハーフ仲間でも「やっぱり『ダブル』って言い方が好き」という意見が多い。確かに言葉として「半分=ハーフ」より「倍=ダブル」の方がいい、っていうのは気持ちとしてわかるな。
見方によっては、「半分」と言うと、片方の何かが欠落しているみたいだけれど、「ダブル」という言い方はそれを感じさせない。これが「ダブル」という言い方が使われるようになってきている理由なんじゃないかな。しかし私自身は日本にいるぶんには「ダブル」より「ハーフ」という言い方が自然だと感じていたりするんだよなあ。特に深い意味はないんだけど、たぶん今まで「ハーフ」と聞き慣れてきたからだと思う。
「ハーフ」という言葉を使いつつ、「私は『半分』じゃなくて『両方』なんだよ」って気持ちは心の中にあればいいと思うっていうか。考え過ぎかもしれないけど、私が「ハーフ」という言葉をあまり差別的だと感じない理由は私が子供の時に「あいのこ」と言われた事があるからかもしれない。それが何だか嫌なニュアンスで使われていて子供ながらに「??!」って思った記憶がある。
あとは戦後を思い出させる「混血児」や「混血」という言葉が入った言い方も微妙だなあ。子供の頃に、ある学校から「ウチの学校では混血のお子さんは日本人クラスには入れないことになってるんですよ」という言い方をされたことがあって(正確には私自身ではなく親が言われた)、今思うとこの発言は悪い意味でスゴイなあ、と思う。丁寧なんだか丁寧じゃないんだか、なんだかよくわからない言い方だな、って。だって「お子さん」という言い方は丁寧だけど、その前に来る「混血の〜」っていうのが…ちょっとね。「混血のお子さん」。うん、かなりビミョーです。
言葉って不思議で、言葉本来の「意味」以外に、その言葉が「それまでどのように使われてきてきたか」によっても、その言葉を差別的だと感じるか・感じないかが違ってくるんだろうね。「混血」や「混血児」に関しては、戦後、米兵と日本人女性の間に生まれた子が蔑視的に「混血児」と呼ばれていた過去があるので、やっぱりその言葉に対して敏感になるのかもしれない。
そう考えると今「ダブルか? ハーフか? あるいはミックスか?」と考えられる時代&環境にいること自体が幸せなのかもしれない。横文字でなく、漢字でハーフの子供の事を指す場合、「国際児童」「国際児」というのが最も差別の無い言い方かもしれない。でも、子供ではなくて大人の場合は何て言えばいいんだろう? 横文字以外に適切な言い方が思い浮かばない。
本当は「ハーフ」「ダブル」「ミックス」「国際児童」などなどこういった言葉をあえてわざわざ使わなくてもよい時代が来れば一番いいんですけどね。ハーフが「私は日本人」と言っても相手から「え? でもハーフなんでしょ?!」とツッコミが入らなくなる時代。あ、でもそういう時代になったらもうこの連載、成り立ちませんね(笑)。
ちなみにドイツ語ではハーフやダブル、ミックスという言葉、使わないなあ。あえて言うならば、ミックスはドイツ語にすると「Mischling」が近いけど、かなり差別的かつ不自然な感じがする。「Mischling」と言ってしまうと、「アナタは何故あえて “Mischling” と言ってるの? もしかしたら生粋が一番だと思っているネオナチ?」なんて思われちゃうな、たぶん。なので、ドイツで自分のバックグラウンドについて説明をする時は「Meine Mutter ist Japanerin und mein Vater ist Deutscher.(私は母が日本人で父がドイツ人です)」というふうに説明するのが一番自然かもしれない。それを受けて「Ach so, dann sind Sie ja Halbjapanerin. (なるほど。じゃアナタは日本人とのハーフなんですね)」と言われる事はあるかもしれないけれど。
Halbjapanerin (日本人とのハーフ・女性) やHalbjapaner (日本人とのハーフ・男性) というふうに、もしドイツ語でハーフ (halb〜) という事を言いたければその後に必ず国名が必要だ。「Halbjapaner, Halbchinese (中国人とのハーフ)、Halbfranzose (フランス人とのハーフ) というように。日本とドイツのハーフ (女性) の場合は「Ich bin Halbjapanerin und Halbdeutsche.」という言い方。
まあドイツ語の場合、国名を入れるのは単に文法上の問題なのだけれど、どうせ「ハーフ」って言うのなら「Halbjapaner, Halbjapanerin」というふうにちゃんと「国名付き」 のハーフのほうが分かりやすいのは確か。
日本では最初はとりあえず「ハーフ」と言い、その後に会話を続けていく中で「どこの国のハーフ? 」というふうに初めて国名に触れることが多いように思う。で、私の考え過ぎかもしれないけれど、「ハーフ」っていう言葉自体は横文字なのに、その使い方はとっても日本的だと思うのね。つまり「ハーフ」は、その人が「半分日本人」&「半分外国人」だという事だけを表していて、日本以外の半分が「どこの国」なのかにまでは触れていない、ということ。これは「ウチの人(内側の人つまり日本人)」&「ソトの人(外側の人つまり外国人」というふうに、とりあえず内と外を分けたがる発想からきているのかな、なんて勝手に思ってみたり。
色々書いちゃったけれど、ハーフ、ダブル、ミックス、国際児童…あなたはどの言い方が好きですか?
6月5日(土)の2時から「ハーフのアイデンティティー」について、ドイツ文化会館でパネルディスカッションをします。私、サンドラも参加いたします。詳細はこちら
サンドラ・ヘフェリン
ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴12年、著書に「浪費が止まるドイツ節約生活の楽しみ」(光文社)など5冊。自らが日独ハーフである事から、「ハーフ」について詳しい。ちなみにハーフに関する連載は今回が2回目。趣味は執筆と散歩。目黒川沿いや碑文谷をよく散歩している。