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ドイツで羽ばたく日本人

ベルリンで整体サロンをオープン 吉川茜さん

整体師と、オーボエ奏者。どちらもよく知られた職業ですが、2つの間に共通点はないように思えます。しかし、この2つを両立させている日本人女性が、ベルリンにいるのです。

吉川茜さんは、整体師。日本の大手整体サロンに約4年間勤務した後、2013年にワーキングホリデービザを利用して、ドイツ・ベルリンにやってきました。
「ドイツに来たときは、将来のことは特に決めていませんでした。ワーホリで滞在できる1年間が終わったら、日本に帰ってもいいと思っていたんです」 という吉川さんの気持ちとは裏腹に、整体師としての活動はトントン拍子で進んでいきました。
そのきっかけは、自宅で友人に整体を施したことでした。ベルリンには吉川さんの友人である音楽家が住んでおり、彼女に施術したところ、その教授へ、さらに知人へ……と、口コミで吉川さんの存在がどんどん広がっていったのです。
そしてドイツ滞在2年目に、整体師として自営業の滞在許可を取得。2015年3月には、本格的な整体サロンをオープンしました。

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吉川さんが整体師を志した背景には、オーボエの存在があります。 中学で吹奏楽部に入部し、そこで先輩が吹いていたオーボエの、芯のある音色にすっかり魅せられたことから、部内のオーボエオーディションに参加し、合格。そこから、吉川さんとオーボエとの日々が始まりました。

メンバー全員で息を合わせて演奏するブラスバンドが、楽しくてしかたなかった中学時代。高校でも迷うことなく吹奏楽部を選び、演奏を続けました。
子どもの頃は、言葉で自分の気持ちを表現するのが苦手だったという吉川さんにとって、言葉の代わりとなったのがオーボエでした。「オーボエは第二の私」と言うように、楽器と二人三脚の毎日を過ごしていたそうです。

当然のように、大学は音大へ。しかし、卒業が近づき、将来の進路について考え始めたときに、吉川さんは今後オーボエで生活していけるとは思えませんでした。
「演奏を仕事にしてしまうと、オーボエが嫌いになってしまいそうだったんです。オーボエをずっと好きでいるために、いったん離れることにしました。たぶん、精神的に弱かったんだと思います」 と、話します。

そして大学4年の夏頃から、就職活動をスタート。音楽関係の数社にトライしたものの、なかなかうまくいきません。途方に暮れながら、ふと思い出したのが、大学2年のときに施術を受けた整体でした。
その年に日本音楽コンクールへの出場が決まっていた吉川さんは、大舞台を目の前にして、不調に悩んでいました。練習をしなくてはならないのに、プレッシャーからか、オーボエを持つと指が痛くなって吹けません。そのことがさらにストレスとなっていました。
見るに見かねた母親が、吉川さんを整体に連れて行ったことで、体がラクになり、コンクール出場を果たせたのです。

「精神的・肉体的につらい演奏家は大勢いるはずです。これまでの自分の音楽経験を活かせる仕事を考えたとき、整体を用いて演奏家をサポートできるかもしれないとひらめきました」
大手整体サロンを経営する会社の入社試験でその思いを話したところ、社員として入社することに。せっかくやってきたオーボエを止めるのはもったいない、という人もいましたが、吉川さんの中では、整体を通して音楽とずっとつながっているのです。

入社後は、ハードな研修となかなか休めない状況に、せっかく入ったサロンを辞めようと思ったことも。しかし数年後には、社内での新規プロジェクトによって整体サロンのコンサルタント的な勉強も行い、売上にも貢献しました。
この経験をもとに、入社時から描いていた「整体で演奏家をサポートする」というビジネスプランを会社に提案。しかしそれは叶わず、この時に初めてドイツ行きを決意したといいます。

ドイツとの出合いは、音大卒業直後に参加した海外演奏旅行のときでした。もともとクラシック音楽といえばドイツ、というイメージが子どもの頃からあったそうですが、ドイツでバンベルク交響楽団の演奏を聴き、ドイツ人たちが心から楽しんで演奏する姿がとても印象的だったそうです。
「音楽が生活に根付き、時間がゆっくりと流れるドイツ……大好きなドイツに行けば、いい施術ができると思ったんです。それに、ベルリン・フィルにはアルブレヒト・マイヤーという素晴らしいオーボエ奏者がいて、そのコンサートにも行きやすいですし」と、吉川さん。
そしてドイツにやって来てからは、冒頭のような活躍が続いています。

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吉川さんの整体技術は、大手サロンで培ったものに加えて、師匠と仰ぐ、日本でバレエ専門の治療院を経営する、オリエンタルセラピスト・広江洋一さんのSKテクニックを取り入れています。
これは、腸と脳が関連性があるという、いわゆる腸脳相関に着目し、人間が本来持つ自然治癒力を向上させるもの。いずれは患者さん自身が、自分で体のバランスを取れるようになる技術だそうです。

じつは、この記事を書いている私も、吉川さんの施術を何回も受けています。ほんの少し、吉川さんが私の腕を上げ下げするだけで、体がスッとラクになるのがわかります。ポキポキ骨を鳴らしたり、痛いことはまったくありません。

整体は、ドイツではマイナーな存在。最初のうちは、日本人の若い女性が身体を診ることに対して、患者さんたちが信頼してくれるかどうか心配だったそうですが、体調が良くなればその技術を認めてくれることがわかったと吉川さんは話します。今では患者さんが、家族など大切な人をサロンに連れてきてくれるようになりました。
ゆくゆくは、演奏旅行に同行して施術したり、オペラハウスやコンサートホールでの施術、また、音大の教授や先生と一緒に生徒の身体をサポートをしていきたい、と吉川さんのビジョンは広がります。

「音楽も整体も、人を元気にするもの。素晴らしい演奏からパワーをもらい、私はそれを整体で返していきたいです」

吉川茜さんサロン連絡先 akane-ob@outlook.jp

2019年7月20日追記
吉川さんのサロンに、中島圭さん、阿部礼里さんの二人が加わりました。このブログでお二人にもインタビューをしています→整体師として渡独、ベルリンで勤務 中島圭さん・阿部礼里さん
また、サロンのHPができました。ご予約希望の方はHPをご覧ください。https://berlinseitaijpn.jimdofree.com/

著者紹介

久保田 由希

東京都出身。小学6年生のとき、父親の仕事の関係で1年間だけルール地方のボーフムに滞在。ドイツ語がまったくできないにもかかわらず現地の学校に通い、カルチャーショックを受け帰国。大学卒業後、出版社で編集の仕事をしたのち、フリーライターとなる。ただ単に住んでみたいと、2002年にベルリンへ渡り、そのまま在住。書籍や雑誌を通じて、日本にベルリン・ドイツの魅力を伝えている。『ベルリンの大人の部屋』(辰巳出版)、『歩いてまわる小さなベルリン』『心がラクになる ドイツのシンプル家事』(大和書房)、『かわいいドイツに、会いに行く』(清流出版)、『きらめくドイツ クリスマスマーケットの旅』(マイナビ出版)ほか著書多数。新刊『ドイツ人が教えてくれたストレスを溜めない生き方』(産業編集センター)。散歩、写真、ビールが大好き。

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