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南ドイツの巡礼路を行く

第20回 ワインの街・ヴュルツブルクの教会で過ごす一夜

ミュンヒナー・ヤコブスヴェークを歩き終え、さて次なる巡礼路は……と調べていて見つけたのが、ヴュルツブルクからウルムに南下する約270kmの道、フレンキッシュ・シュヴェービッシャー・ヤコブスヴェーク(Fränkisch-Schwäbischer Jakobsweg)です。

なんだか舌を噛みそうな名前ですが、意味しているのは「フランケン地方およびシュヴァーベン地方のサンティアゴ巡礼路」。ここでは便宜的に「フレンキッシャー・ヤコブスヴェーク」と呼びたいと思います。

 

 

フレンキッシャー・ヤコブスヴェークは、ロマンティック街道の北の起点であるヴュルツブルクから、中世の街並みが残るローテンブルクを通り、世界一の高さの大聖堂を誇るウルムに至る、なんとも魅力的なルート。

フレンキッシュ・シュヴェービッシャー・ヤコブスヴェーク地図

私の住むバイエルン地方ではないところを歩いてみたいと思っていたので、この巡礼路を次の目標に決定! そうと決まれば、さっそく週末を利用して、巡礼のパートナーでもある夫とともに出だしの52.5kmを歩いてきました。

 

■世界遺産&ソーセージ! で思わず観光気分

連載第20回目の今回は、出発地のヴュルツブルクと、宿として利用した教会についてお届けしたいと思います。

マイン川沿いの街・ヴュルツブルクは、ミュンヘンから列車で2~3時間ほど北上したところにある、人口約125万人の小都市。個人的には、1600年代に魔女狩りがさかんに行われた、なんとなく薄暗い場所として記憶していました。

しかし降りたってみれば、天気も手伝ってそのイメージを払拭するにぎやかな街並み! 人々の方言も耳に心地よく届きます。写真の奥に見えているのはロマネスク教会を代表する大聖堂(Dom)です。

大聖堂が建てられたのは11~12世紀ごろ。第二次世界大戦後に再建されたそうです。

大聖堂が建てられたのは11~12世紀ごろ。第二次世界大戦後に再建されたそうです。

 

市場が開かれていたマルクト広場に面して建つ、赤い尖塔が印象的なマリエンカペレ(Marienkapelle)。

後期ゴシック様式の教会。入り口にはアダムとイブ像が。

後期ゴシック様式の教会。入り口にはアダムとイブ像が。

 

世界遺産にも登録されているレジデンツ(Residenz)の庭園は、散歩にぴったりな美しさ。

18世紀に大司教の宮殿として建てられたレジデンツ。次回は内部も見学したい!

18世紀に大司教の宮殿として建てられたレジデンツ。次回は内部も見学したい!

 

そしてお腹が空いたらフランケン地方のソーセージ、「フレンキッシェ・ブラートブルスト(Fränkische Bratwurst)」を……。

ドイツ料理レストランの『ラーツケラー(Ratskeller)』にて。8.9€。

ドイツ料理レストラン『ラーツケラー(Ratskeller)』にて。8.9€。

 

■Tシャツと短パン姿の神父さんに遭遇

……と、巡礼路を歩きに来たはずなのに、思わず観光気分の私たち。気持ちを整えて、今夜の宿であるケッペレ(Käppele)へ向かいます。

右上の丘の中腹にある黄色い建物がケッペレです。

右上の丘の中腹にある黄色い建物が目指すケッペレです。

 

教会を意味するケッペレは通称で、正式には聖母訪問巡礼教会(Wallfahrtkirche Mariä Heimsuchung)というのだそう。つまり、今晩私たちが泊まるのは巡礼教会の中。巡礼者用に部屋を提供していることを事前に調べ、一晩泊まらせてほしい旨のメールを送っておいたのです。

丘の中腹にあるケッペレへは、300段以上の階段をのぼって向かいます。息を整えつつ、高台から眺める街並みは最高!

マイン川沿いに栄えた街・ヴュルツブルクを見下ろす。

マイン川と、ヴュルツブルクの街を見下ろす。

 

教会の横手にあった扉のチャイムを鳴らすと、中年の女性が出てきて、2階にある小部屋へと案内してくれました。部屋は個室がふたつありましたが、私たちはふたりで一室を使うことに。ほかに共同のトイレやシャワールーム、簡素なダイニングルームも用意されています。「寄付」ということになっている値段をさりげなく尋ねると、だいたいひとり15€程度を置いていく、とのこと。

案内された小部屋。簡素ながら、落ち着く空間です。

案内された小部屋。簡素ながら、落ち着く空間です。

 

明日は早朝から歩き出す予定。早めの夕食を食べに外へ向かおうとすると、階下でTシャツと短パン姿のおじさん……もといこの教会の神父さんと遭遇! 気さくに近くにあるよいワイン居酒屋を教えてくれました。

 

■丘の上のワイン居酒屋で

そうワイン! フランケン地方については、ワインのことを無視しては語れません。フランケン地方は白ワインの一大産地。平たくでっぷりとした「おでぶちゃん」なボトル、ボックスボイテル(Bocksbeutel)を記憶している方も多いかもしれません。

駅に降り立ったときから周囲に広がるワイン畑の丘。葡萄のつるが絡まった様子を模した可愛い看板。それにほら、橋の上で人々が傾けているのはビールではなくワインです! ”ビール王国”からやってきた私にとってはとても新鮮な光景です。

橋の上で、近くのレストランで注文した白ワインのグラスを傾ける人々。

橋の上で、近くのレストランで注文した白ワインのグラスを傾ける人々。向こうに見えるのはマリエンベルク要塞。

 

神父さんが教えてくれた居酒屋もいい具合。小さな屋外劇場が併設されていて、ドタバタ劇の愉快なやり取りがBGMとなって聞こえてきます。

丘の上にある穴場居酒屋。芝居の前に”1杯ひっかける”地元の人も大勢。

丘の上にある穴場居酒屋『Schützenhof』。お芝居の前に1杯ひっかける地元の人も大勢。

 

あまりお腹が空いていなかったので、ここではヤギのチーズがのったサラダと、きりっと美味しい白ワインをいただきました。

さて、ほろ酔いになってすっかり日が暮れた中教会へ戻ると、なかはもうひっそりとして、夜の学校にも似た雰囲気……。

いよいよフレンキッシャー・ヤコブスヴェークの旅のはじまり。教会の小さなベッドのなかで、わくわくを噛み殺しながら眠りについたのでした。

 

 

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巡礼中の私と夫著者プロフィール:溝口 シュテルツ 真帆(……と旅の相棒の夫)

2004 年に講談社入社。編集者として、週刊誌、グルメ誌を中心に、食分野のルポルタージュ、コミック、ガイドブックなどの単行本編集に携わる。2014年にミュンヘンにわたり、以降フリーランスとして活動。著書に『ドイツ夫は牛丼屋の夢を見る』(講談社)。南ドイツの情報サイト『am Wochenende』を運営中。http://www.am-wochenende.com/

著者紹介

溝口 シュテルツ 真帆

2004年に講談社入社。編集者として、『FRIDAY』『週刊現代』『おとなの週末』各誌を中心に、食分野のルポルタージュ、コミック、ガイドブックなどの単行本編集に携わる。 2014年にミュンヘンにわたり、以降フリーランスとして活動。『おとなの週末』公式ウェブサイトでコラムを連載。南ドイツの情報サイト『Am Wochenende』を運営。徒歩で行く旅に魅せられ、四国遍路、サンティアゴ巡礼を踏破する。次なる地をドイツに設定し、今ブログで発信中。

Blog : http://www.am-wochenende.com

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