第27回 【最終回】旅の終わりはウルムにて
これまで26回にわたってお届けしてきたドイツのサンティアゴ巡礼路をたどる旅ですが、今回を最終回とさせていただきます。
……というのも、私事で恐縮ですが、ただいま妊娠9ヵ月。お腹を抱えて長距離を歩くことが難しくなり、子どもが産まれればしばらくは気ままに出歩くこともできなくなるだろう……ということで、文字通り“道半ば”の思いはありますが、このあたりでちょっと休憩、というわけです。
今回は、前回までたどってきたフレンキッシュ・シュヴェービッシャー・ヤコブスヴェーク(Fränkisch-Schwäbischer Jakobsweg)の終着地、ウルム(Ulm)という街の様子をお届けしたいと思います。
巡礼路から街に入れば、街並みはこんな様子。ウルムはドナウ川沿いに広がる人口12万人程度の小都市ですが、実は私はこの街がけっこう好きで、訪れるのは今回が3度目。
まずは巡礼路のゴールに設定されているウルム大聖堂へ。この大聖堂の尖塔は161.53mと世界一の高さを誇ることでも有名。もちろんエレベーターなどは設置されていないので、140mの高さに設置されている展望台まで、768段の階段をのぼっていくのはちょっとした一苦労です。
でも、塔の上からは街とドナウが一望できる絶景を臨めます。
さて、ウルムの街を散策していると、あるものが目につきます。それは「スズメ」のモチーフ。ほらこちらにも、あそこにも……。
これにはちょっと可愛い伝説があります。かつてウルムの街を建築中だった職人たちが、どうしても長さのある建材が門を通らず頭を悩ませていました。すると、巣作り中だったスズメが、くわえていた木片を縦にしてするりとせまいところを通り抜けていくではありませんか。職人たちは感心し、そのスズメの真似をして、建材の方向を変えて再挑戦したところ、見事門を通り抜けた、というわけなのですが……。
「スズメに教わる前にわからなかったのかな?」という感想が頭を離れないわけですが、そこは伝説。街中に飾られたスズメを探して歩くのも楽しいウルムです。
また、ウルムには「漁師の一角(Fischerviertel)」と呼ばれる水路が流れる地区があり、戦火を免れた建物が多く残り中世の面影をとどめていて、散策するのに最高。
個人的に気に入っているのが、この「シーフェス・ハウス(Schiefes Haus)」。schief(斜めになった)の名のとおり、建物が大きく傾いてしまっているのがわかるでしょうか?1433年に建てられた邸宅ですが、次第に傾きが大きくなり、現在のような状態に。眺めていると方向感覚が狂うような……。現在、中はきれいにリノベーションされ、ホテルとして営業しています。
そしてもう一ヵ所、ウルムはかの物理学者アルベルト・アインシュタインの生誕地でもあります。彼の業績をたたえ、中央駅前にモニュメントがあるほか、街の東方に「アインシュタインの泉(Einstein Brunnen)」という名のこんなユニークな噴水も建てられています。
噴水の近くで見つけたその名も「アインシュタイン・カフェ(Einstein Café)」というカフェの肉汁したたるオリジナルハンバーガーにかぶりついたら(ドイツのハンバーガーはなかなか美味です。ソーセージに飽きたらぜひトライしてみてください)、さあ、旅もそろそろ終わりです。
まだ見ぬドイツの景色をとことん味わいたい、名も知らぬ村から村を自分の足でたどってみたい。ドイツのサンティアゴ巡礼を歩く旅は、私のそんな願いを十二分に満たしてくれました。
気が向いたら、お好きな街からふらりと歩き出してみてはいかがでしょうか?きっと見たことのない、なのにどこか懐かしい、素敵な道に出会えるはずです。Buen Camino!
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2004 年に講談社入社。編集者として、『FRIDAY』『週刊現代』『おとなの週末』各誌を中心に、食分野のルポルタージュ、コミック、ガイドブックなどの単行本編集に携わる。2014年にミュンヘンにわたり、以降フリーランスとして活動。