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ドイツで羽ばたく日本人

ベルリンを拠点に自分の写真を追求 四方花林さん

ベルリンを拠点に欧州・アジアで幅広く活躍する写真家・四方花林(しかた・かりん)さん。

まるで静物画のような果物たち。映画で見たような夏の草原。普段は何気なく目にしているものが、四方さんのファインダーを通すと物語のように映ります。ベルリンで創作活動を続けている理由と、そこで得たものとは何かをうかがいました。

2017年にベルリンのアートブック書店で開催した展示「夏の終わりの憂鬱」から。

2017年にベルリンのアートブック書店で開催した展示「夏の終わりの憂鬱」から。

 

油絵を思わせる色と質感。四方さんが手がけるフード写真プロジェクトの作品。

油絵を思わせる色と質感。四方さんが手がけるフード写真プロジェクトの作品。

 

古くて新しい、ベルリン・ミッ
テ地区

 

四方さんがベルリンに住み始めたのは、2016年3月から。好きだった写真の道を歩むために宝塚歌劇団を退団し、数年後には日本国内やロンドン、シンガポールで展覧会を開くようになりました。

そのため当初はロンドンに滞在したいと考え、イギリスのワーキングホリデー・ビザに応募していました。しかし、イギリスのワーホリビザは定員数が決まっており、抽選で当たらなければ取得できません。四方さんは4回の応募にもかかわらず、当選することはありませんでした。

そんなとき、写真の先生から勧められたのがドイツ。一度見てみようと、ロンドン滞在の際に初めてベルリンに立ち寄ったそうです。
「ギャラリーが集まるベルリンのミッテ地区を歩いてみたら、アートな雰囲気が漂っていて気に入ったんです。住みやすそうだなと思いました。それにヴォルフガング・ティルマンスという、大好きなドイツ人フォトグラファーのギャラリーがベルリンにあるのも、住むきっかけになりました」

ドイツのワーホリビザに定員はありません。必要書類さえそろえて申請すれば、基本的に1年間のビザが下ります。四方さんはまずワーホリで1年間滞在し、その後はアーティストとしてのビザに切り替えています。

ベルリンには古い建物やディテールがそのまま残ってる反面、新しいものも共存している点が特に好きなのだそうです。それに東ドイツという、今はなき国の時代に生まれたものもあります。古さと新しさ、旧西と旧東ドイツが一つの街に混在しているのは、ベルリンだけが持つ唯一無二の魅力でしょう。

仕事柄、移動が多い四方さん。去年は13カ国を回ったそうですが、ベルリンはヨーロッパの中心に位置しているので移動も便利だと感じています。「移動するのは好きですが、旅行先からベルリンに帰ってくると落ち着きますね」と、既にベルリンがホームタウンになっています。

フード写真プロジェクトの写真。スタイリングは四方さんのパートナーが担当。

四方さんのフード写真プロジェクト作品。スタイリングは四方さんのパートナーが担当。

 

一流フォトグラファーの元で、ドイツの働き方を経験

ベルリンに来て最も大きな収穫は、一流ドイツ人フォトグラファーのアシスタントを約半年間経験し、ドイツ人の働き方を目の当たりにしたことでした。

雑誌『タイム』の表紙や著名人のポートレートなどで知られるオラフ・ブレッカーがアシスタントを募集していることを知った四方さんは、すぐに応募。写真家として活動している四方さんにとっても、映画・動画撮影の手伝いやライティングなど、技術的に学ぶことがたくさんあったそうです。

映画撮影の現場にて。

映画撮影の現場にて。

 

 

「私はこれまでに動画撮影の経験もあったので、映画の撮影をやらせてもらったりと、得意なことをどんどん任せてくれました。写真のセレクトやキャスティングに際しても、常に意見を求められましたね」と、アシスタントとはいえ重要な仕事を行っていました。何より日本と大きく違ったのが、働き方でした。日本の写真スタジオでは徹夜作業も珍しくはありませんが、ここでは帰宅が遅くなることは少なかったそうです。

「とにかくムダがないんです。毎朝スタジオに行くと、その日のタスクが所要時間とともに示されているんです。それをもとに、30分おきにタイマーをかけて作業していきます。どれだけ集中して仕事ができるかが大切でした」
もちろん、日によっては遅くまで撮影が続くこともあります。そんなときは翌日のスタートを遅めにして、昼休みは取らずに働くのだとか。

「アシスタント業務を通して、ドイツの生産性の高さを目の当たりにしました。早めに帰宅できるから、家で勉強もできます。日本で同じように再現できるかはわかりませんが、今後の働き方を変えていきたいです」

 

出会いのチャンスが多いベルリン

 

ベルリンでは人とのいい出会いが多く、「ここに来たのは、この人と出会うためだったのかも」と思うこともよくあるそうです。

たとえばベルリンで最初の個展会場となったのはカフェでしたが、きっかけとなったのはそこのカフェの従業員と知り合ったからでした。「写真を撮ってます」「じゃあ見せて」という会話から、カフェで個展をやることに。展示期間中にたまたまカフェを訪れた新聞記者の目に止まり、ドイツの新聞に作品やインタビューが掲載されました。そんなふうに、人との出会いが新たな扉を開けてくれます。

新聞Tageszeitungでインタビュー記事が掲載された。

新聞Tageszeitungでインタビュー記事が掲載された。

とはいえ、創作活動をしている人なら、まずは自分の作品を追求したほうがいい、と四方さんは話します。

展示「夏の終わりの憂鬱」の会場となったベルリンの書店。

展示「夏の終わりの憂鬱」の会場となったベルリンの書店。

2017年にベルリンのアートブック書店で開催した展示「夏の終わりの憂鬱」から。

2017年にベルリンのアートブック書店で開催した展示「夏の終わりの憂鬱」から。

「海外で活動していると、人からよく『どうやったら成功するの?』『誰とつながればうまくいくの?』などとマニュアル的な内容を聞かれるんです。でも、『これをやればうまくいく』といった答えはないし、人に言われたとおりにするだけではチャンスは来ないのではないでしょうか。自分が好きなこと、納得できることを追求していけば、出会いもついてくるものだと思います」

 

事務的な作業なら人に聞くのも一つの手段ではありますが、創作はまた別。自分の世界を究めていくのは、日本でも同様でしょう。

 

ヨーロッパと日本の両方で活動

四方さん自身は、現在はフード写真の撮影に力を入れています。作品はフードスタイリストのパートナーとの共同制作。写真に写った、テーブルに並んだ果物や野菜は、こっくりとした色をしています。

 

油絵による静物画のようだな、と思いながら見ていましたが、じつは四方さんは4歳から油絵を習っていたのだとか。フードのシリーズでは、そうした油絵的な世界を追求していくそうです。

こちらもフード写真プロジェクトの作品。

こちらもフード写真プロジェクトの作品。

 

 

作品制作に必要な広い場所やアンティークの食器、絵になる果物など、どれもドイツにいれば手に入りやすいもの。それもベルリンに住むメリットでしょう。

 

「ベルリンに住んでいるからできることも多いですし、日本でできることもあります。私はあちこち動き回るのが好きなので、これからもヨーロッパと日本を行き来しながら作品を撮っていきたいです」

 

多くの経験を重ねることで、独自の世界をさらに深めていけることでしょう。

創作活動に携わるなら、四方さんのようにベルリンを拠点に世界で活動するのも一つの方法だと思います。

写真 ©Karin Shikata

 

四方花林さんHP: http://shikatakarin.photography/

berlin food stylistics: https://www.berlinfoodstylistics.com

instagram: https://www.instagram.com/karinkamera/

https://www.instagram.com/berlinfoodstylistics/

 

著者紹介

久保田 由希

東京都出身。小学6年生のとき、父親の仕事の関係で1年間だけルール地方のボーフムに滞在。ドイツ語がまったくできないにもかかわらず現地の学校に通い、カルチャーショックを受け帰国。大学卒業後、出版社で編集の仕事をしたのち、フリーライターとなる。ただ単に住んでみたいと、2002年にベルリンへ渡り、そのまま在住。書籍や雑誌を通じて、日本にベルリン・ドイツの魅力を伝えている。『ベルリンの大人の部屋』(辰巳出版)、『歩いてまわる小さなベルリン』『心がラクになる ドイツのシンプル家事』(大和書房)、『かわいいドイツに、会いに行く』(清流出版)、『きらめくドイツ クリスマスマーケットの旅』(マイナビ出版)ほか著書多数。新刊『ドイツ人が教えてくれたストレスを溜めない生き方』(産業編集センター)。散歩、写真、ビールが大好き。

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