What if Berlin: 「もしも実現されていたら」を乗り継ぐ
ベルリン芸術祭(Berliner Festspiele)が今年、創立75年を迎える。この記念すべき年に芸術祭が展開するプログラム「フォーカス・ジャパン」では、2026年8月から2027年の3月にかけて、日本の舞台芸術と音楽芸術に焦点を当てたプロジェクトが実施される。能楽作品の上演、トーク、ジャズ、ダンス、パフォーマンス、演劇など、数々のプログラムの幕開けを飾る、アーティスト高山明さんの「What if Berlin」に参加してきた。

「What if Berlin」は、タイトルが示す通り、ベルリンの「もしも」を題材にした作品だ。75年の歴史の中で構想されながら、さまざまな理由で実現しなかった芸術プロジェクトを掘り起こし、「もし今、実現するとしたら?」と参加者に問いかける。
参加者は、ベルリンを一周する環状線(Ringbahn)の駅に集合し、ガイドに率られながらいくつかの駅を回っていく。駅には立ち寄るポイントが設けられていて、ポイントごとに一つの実現されなかったプロジェクトが紹介される。一周およそ1時間かかる環状線は6つのツアーに区切られていて、好きなツアーを選んで参加できる。およそ2時間のツアーの間で、参加者はベルリンて実現されたかもしれないプロジェクトを発掘し、そのプロジェクトと日常の街並みを結びつけ、将来どんなプロジェクトが実現されるべきかを考えながら、街や自分の未来について考えさせられる。
プロジェクトの実現のため、チームはベルリン芸術祭のアーカイブから膨大な資料を精査したのだという。実現されなかったプロジェクトであるにもかかわらず、アーカイブに資料が残っているのはとてもドイツらしい。選ばれた27のプロジェクトには、関連のある環状線の駅が割り当てられ、ガイドツアーが組まれていった。

ベルリン芸術祭の75年の歴史を直接知る人はそれほど多くない。当然、世代も出身も多様なガイドの皆さんもそうだ。彼女ら、彼らは、ガイド向けに組まれたワークショップに参加し、議論を重ねながらプロジェクトへの理解を深めていったのだという。
私の参加したツアーのガイドは、ブルガリア・ソフィア出身のアリシアさん。普段は俳優をしている。多くのガイド同様、彼女は1人の人間としてもこのプロジェクトに結びつきを感じているという。ツアーの冒頭、担当する「もしも」プロジェクト全体を貫く問いとして、「Berlinerとは誰か?」という質問を参加者に投げかけてくれた。
今回のツアーでは、確かにベルリンという街を分断していた、あるいは今も分断しているかもしれない、さまざまな線引きを扱う芸術プロジェクトが紹介されていた。東西を分かつ線、国籍という目に見えない線引き、そして環状線という街を囲む路「線」。
ヘッドホン越しに聴こえてくるアリシアさんの声に導かれながら、同じく外から引っ越してきた人間として、街の歴史に向き合いながらその未来に想いを馳せる、素敵な時間だった。

「What if Berlin」は9月まで開催。要予約、対応言語はドイツ語および英語。